今から20年前のものです。記念誌寄橋文、友人宮大工、衛藤文秋!第三回
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【演武会】
翌春、俺らの道場も20人を越えた。
皆に見てもらうんだ、近くの小学校に会場かりに二人で行ったよ!
「お前ここにおれ、まっちょけ」
職員室に入る。30分位して、
「三代帰ります!」
入る時より大きな声。
「校長一人で決めきらん、金玉ん小いせえやっちやぁ。明日三重の教育委員会にいっち来る」
結局借りたよ!怪物三代だ。今でも田舎はむっかしいんじやぁないか。
手造りと言っても銭が要るよ!
プログラムに広告載せて寄付して貰おうという。
二人ずつ組んで三重町、全て回った。こうして、三代さんを大将に小さな演武会が出来た。
その日、俺らが働いた土建屋の親父、酒とビ—ルを
「祝いじゃあ」
高校生に酒持って来た。一時が万事、田舎はオ—プンよ。
土建屋の親父若い頃は、名を出した侠客だったち、近所ん人が言うちょった。
貫禄あったで、体中絵描いとる。
そん親父がで、
「衛藤お前んとこん、大将スゲーのお」
良くしてくれたよ!当時五十歳位、こんな人からも好かれちょった。
終わってからも、大変じゃあ!全員掃除、
「前より綺麗にする様に」
【突撃】
天気のいい日、近所の子供集め、山登るんよ。昼飯は三代さんの握り飯。
ただ歩くんでないんよ、急に立ち止まり、向こうを目指し、指をさし
「敵陣発見、全員突撃」
軍隊調よ、そして先に走り出す。遅れた小さな子は泣きながら、それでも走る。
だけど、正ちゃん、正ちゃん、と慕われていたよ!
今も、突撃好きでないかな、常に突撃よ。
【西瓜】
たまに、悪い事もするんで。
西瓜獲りにじゃなく食いに行こう。
節を除き先を尖らせた小さな竹を用意する。
裸に墨を塗り合う、夜、西瓜畑に行くんだ。それぞれ手探りで西瓜をひっくり返して、竹を刺し、かき回して、汁を吸う、腹いっばい成ったら元通りにしておく。
いつか、おかしいと思った畑のおっさんが番しているんよ。
何時も通り行ったよ!一人が小さな声、
「誰かおるで!」
タバコ吸う度、明るくなっていた。
三代さん、
「バカ!ありゃ、ホタルじゃ」
おっさんの少し前で見つかった!
「コラー!」
何処をどうやって逃げたやら、誰も捕まらんかった!
皆あっちこっち傷だらけ、三代さんのおっさん、
「バカンジヨウガ」
と一緒に大笑いした。後日校内で噂に成った。
追われながら、両脇と口にくわえ、計三個持ち帰ったんだと、又皆大笑い。
「ヤッパリ怪物だー」
一緒にいると楽しかった!
【大工入り】
俺は、高校二年の二月に学校辞めた。悪い事何もしてない。休んだ事もない、大工になりたかったんだ!
何日も考えた。三代さんに相談した!
「お前が決めたんなら何も言わん!頑張れ!男なら、蛇の尻尾より、鶏の頭じゃあ、衛藤!」
これで、吹っ切れたよ!自分が主人公て事か。
大工の弟子についた1ヶ月位経ったある日、
「衛藤がお世話になっています。宜しくお願いします!」
親方と奥さんに挨拶してくれた。
その夜、親方と飯を食べて、弟子の小さな部屋で遅くまで話をしたよ。
三代さん、足つかえるため、斜めになって寝た!
俺は、その小さな部屋で、7年間、大工の手練を重ねた。
【俺の宝物】
何年かして、横浜へ会いに行った。
夜二人で外人墓地に行ったんや!
「懐かしいのお、衛藤!スマンの衛藤!お前来ても、今ん俺じゃ、飯も食わされん!」
ちゅうて、泣いちょった、あの強い三代さんかだよ!
俺も泣いた!
次の日、
「何も土産がないけん今の俺を見てくれ」
一生懸命演武してくれたよ!二人だけよ、涙が止まらなかった!
大分に帰る日、良く洗濯された胸に三代と入った、縫い込みの道着と黒帯をくれたよ!
今でも大事に大切にしている。
俺の長男、正拳て名だ。名付け親は三代さん。名付け親が良いのでスクスク育っている。
この子には、小さい時から三代さんのはなしをしている。
今では俺の知ってる事は全て知っている。
長女、麻衣、大学四年も同じだ。
「又、父さん酒のんで、昔話」
と笑う、今まで私は手紙を書いた事がない、全部、女房に代筆させた、初めてです。
あの三代さんの人間味は、手紙では書けません!
皆さんが羨ましいです。終わり
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舘長、改めて、懐かしい、時時を想いながら、衛藤の文章を打ちました。
時代は、星影のワルツ、高校三年生、惜別の歌、とかが流行っていた時代。
高校一年の時、東京オリンピックがあった。
自分の事を恥ずかしい思いで受け止め、歳月の重みを感じます。
衛藤の人柄を改めて、感じ、今横浜で46年の時間がたち、世の中全てが変わりましたね!