2014年7月25日金曜日

【二回目】 特別寄橋 衛藤文秋

【台風】

ある夏、台風のため鉄道が不通となった。
遠い者は家まで70kmもある。嵐の中30人歩いた。
10km行くとみんな無口になる。

「俺銭借りてくる」

とトヨタの事務所に行き、知らない人から銭を借りてくれた。
家の遠い順にタクシーで帰らせた。俺ら56人は歩きだ。
そんなに銭はない。

10時頃三代さんの家に着いた。
握り飯を作ってくれた。皆すぐ寝る。

三代さんは良く勉強した。俺にはせいとは一回も言わん。
成績は一番か二番。
それより何より凄いのは思いやりと行動力。
高校の頃からあったで、昔から怪物三代と呼ばれていた。


【三代さんの家】

父さん、変わった人だ。
仕事は新聞販売店、牛乳の配達、百姓はしてなかった、と思う。
人の目は気にせん。

「おっさん単車のマフラー直しちやろうか」

もう何日も引きずって乗っている。

「やちもねえ事せんでいい、壊れたら買い直す」

新車が入った、もう泥だらけ。

「おっさん、掃除しちやろうか」

「せんでいい、どうせ又汚れる、おら会社が作った物はすかんのじぁ」

こんな人でした。
母は幼い時死んだ。覚えてないそうだ。
二度目の母が彼を育てた。中学の時その優しい母も死んだ。
私は思う、電波高等学校を選んだのはその母の在所に近かかったからではないか。時々墓参り行ってたんじゃないかな、と。

初めて家に行った頃は、おっさんと二人暮らしだった。
毎朝5時に起き飯を炊き自分で弁当を作って新聞配達、7時前に汽車に乗る、帰って来ると又飯炊いて空手の練習。
時間が足りない、汽車の中しか勉強出来ないと言う。

そんな秋!

「衛藤、今日三人目が来る」

「ほんなら俺、今日は家に帰るわ」

「構わん、泊まれ」

新しい奥さんに

「衛藤です、お願いします」

三代さん、奥さん、おっさん、何も言わん。
そのまま道着を着て神社で練習又練習。彼は無言だった。
その後一年後奥さん変わった。そんな環境の中で、明るく、真っ直ぐ、強く、凄い人だなぁと何時も思ってたよ。
おっさんはやさしさを出さない人だった。


【野外道場】

ある日、道場を作ろうと言い出した。
候補地は三代の家の上の小山、木も生えてる山だ。今は夏休み

「明日全員、鎌、スコップ、を持ってこい!」

俺なんか汽車だよ!カッコ悪いよ。でも78人集まった。
皆毎日やったよ!掘った土は家の裏に落とすのよ!
普通やったら、怒るで、でもおっさん、何も言わん、言わん!
どころか笑ってる。1週間もすると16帖位の平地が完成だ、嬉しかったよ、俺らの手造り道場だ、入り口も無いのに皆一礼している。
三代さんますます張り切って、皆家の裏に蹴り落とされるのよ!楽しかったな!
三代さんは練習のし過ぎでもうこの頃から菊の紋が崩れちょった。

ある日、
「俺がご馳走しちゃるき、今から皆で蛙を取ってこい」

あの大きな食用蛙だ、皆嫌だよ、でも二匹収穫して帰る。

「おお上等」

と言って生板の上で皮を剥ぐのよ!巧い、慣れてる。
皆顔見合せて、

「あんた日頃そげんもんばっかし喰ろうちょるんかい」

「バカ、これが、うめーえちゃ」

見る見るフライにした。何人かは食ったが、俺は食えなかった。
三代一人

「うめーうめー」

道場が出来て前にも増して人が集まった。小学生、中学生、何でか今も分からない。
只、一緒に居ると、気持ちいい、嬉しい、優しくなれる」
皆でサンドバッグ買おうと決めた。銭がない!
三代さんが土方の仕事を見つけて来た、暑い夏!日中水路に入って頑張った。
皆一生懸命やった。
34日行ってサンドバッグ一個。大変だったよ。  

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